映画『Vision』レビュー

今回は河瀬直美監督作品『Vision』のレビューを行いたいと思います。なかなか個性あふれる作品でした。確実に好みの別れる映画です。話の内容を簡単にまとめつつ、私なりのコメントも合わせてご紹介したいと思います。ネタバレが含まれますので、話の内容を知りたくないという人は、閲覧をお控えください。全てのストーリーを紹介することはありませんが要所要所の場面には触れていきます。

 

まず、物語を語る上で避けては通れないキーワードから。映画のタイトルにもなっているように、Visionについてお話ししましょう。Visionとは、約1000年に1度しか胞子を飛ばさない幻の薬草とのこと。映画の冒頭では、そんな説明です。というのも、山に住む男の元を2人のフランス人(一人は日本人だが、フランス語を話せるという設定なのか)が訪れ、このVisionを探し求めます。フランス人女性の1人を演じるのはかの有名なフランスの女優であるジュリエット・ビノシュ。彼女は、Visionについての研究をフランスで行い、難解な計算を解いて…その結果、今年、その山でVisionという草がお目にかかれるのだと判断したとのこと。

 

主人公である永瀬正敏は、山に住む住人です。彼は、フランスからの客を二人、泊めてやることにしました。最初は、片方のフランス人(つまり、フランス語が話せる日本人か)が通訳をするのですが、途中から、なぜか…その人が「おばあちゃんの家にいく」と言って消えてから、英語での会話が始まります。これには違和感を覚えてしまいます。なぜ、今までは、通訳なしでしか会話ができていなかったのに、いきなり、英語が普通に話せるようになるのか。しかも、山奥に住む主人公が、普通に英語を話せることの説明がどこにも見当たりません。英語が話せてもいいのですが、その際に「あ、話せる。どこで英語を?」などのリアクションがあるべきでしょう。しかし、そんなこともなく、英語を話せて当然かのように、物語が展開します。

 

フランス人女性が主人公の家に住み始めてすぐ、二人のラブシーンがあります。いきなり、女性がキスを仕掛けて、謎のラブシーンが始まります。が…これの位置づけは最後まで不明なまま。私個人としては、決していらない時間であったように思えます。その女性がただ気まぐれに男の人に手を出したような印象に終始していると言わざるを得ないでしょう。そして、フランス人女性は一度、フランスに帰国します。

 

そうこうしているうちに、どこからともなくある青年が現れます。一人ぼっちになっていた男性は、遭難していた青年を助け、家に泊めます。すると二人は意気投合。フランス人女性がまた帰ってくるのですが…彼女は嫉妬したような表情で、「いつからここに?」と尋ねます。ものすごい、不機嫌そうです。これの説明がつきません。なぜ…何が気に入らないのか…これがわからないままに、話は進んでいきます。英語での会話ですが…新しく家に加わった青年は映画わからないので、主人公である男性が通訳をします。青年が作った料理を食べたフランス人女性が「美味しい」といったら、それを通訳していました。しかし、ある日、急に、青年は英語を話すようになります。歯がゆい展開が続きます。映画的に大げさに説明する必要はないのですが、せめて、「え?いきなりなんでこんな矛盾が?」という部分は、ちゃんと責任を持って、辻褄合わせをしてもらいたいものですが…そんなものはありません。

 

河瀬直美監督は、自分で作りたいものを作っているのかもしれませんが、それが人に見せる作品になっているかというと、少し疑問が湧きます。自分で作って、自分で楽しんで、それを家族に見せる程度ならよかったのかもしれません。無料で公開する場合も何も問題ありません。お金を取っておいて、ランダムな思考を「はい」と手渡されたような印象です。

 

芸術的な側面を強くすること自体は賛成です。そんな映画があってもいいと思います。芸術的で、見ていて、気持ちいというか…ああ、芸術作品を見ているのだ…という感覚です。かと言って、この作品は芸術作品にもなりきっていません。どこかで、「このあと、話の辻褄が合うのだよ…」と匂わせておいて、一気に、放置される。これの連続です。裏切りにも気持ちのいいものと悪いものがありますが、この作品は誠に後者に甘んじています。黒澤明監督の『夢』のように、芸術的な鑑賞ができるのなら、いいのですが、そうでもありません。

 

この芸術的要素を入れたい…このストーリーにしよう…ああ、でもこの話はやめとこう…というその場の考えがつぎはぎされた…そんな印象を受けてしまいます。全体がどうも密着せず、浮き足立ってしまっています。作品を最後まで見ても、Visionが一体なんなのかが不明なまま。薬草や植物であるかどうかすら謎です。この監督のファンの人が見ても、ひょっとすると「はい?」で終わるのかもしれません。

 

芸術的な要素にこだわるのか、それとも、ストーリーに整合性を持たせるのか。どちらかはっきりすることで、この作品は改善できるのかもしれません。ツアーに参加したのに、予定されていた見所をすっ飛ばして…弾丸ツアーが終了した。そんな気分になってしまいました。どれだけ「芸術的な」作品を好む人でも、これには首をかしげるのではないでしょうか。